「愛と復讐、どちらが本当の私?」 記憶を失った少女の、危険な偽装生活が始まる!

「愛と復讐、どちらが本当の私?」 記憶を失った少女の、危険な偽装生活が始まる!

拓海86 · 完結 · 44.5k 文字

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紹介

両親の仇である彼らは、私を救ったつもりでいる。
でも私は、彼らが始末し損ねた亡霊なのよ。

今、私は仇の家族と同じテーブルで食事をし、
彼らの息子に微笑みかけている。
私を治療してくれた医師。
彼の世界を燃やし尽くすために利用している男。

彼に触れられるたび、それを求めてしまう自分が憎い。
これは復讐のための任務だったはず。
恋愛なんて、想定外のバグよ。

彼らは傷ついた子羊を家に連れて帰ったつもり。
でも、それは大きな間違い。

彼らは狼を招き入れてしまったのだから。

チャプター 1

 漆黒の闇が広がる夜、雨は容赦なく降り注ぎ、B市郊外の高速道路を濡らしていた。時折閃く稲妻に、路面がぬらりと輝く。私は後部座席で、両親のひそやかながらも切羽詰まった声に耳を傾けていた。

「とにかく進まないと。裕也はもう実験データのこと、知ってるのよ」母の声は震えていた。

「ちくしょう、もっと早く証拠を処分しておくべきだった」父はハンドルを握る拳が白くなるほど力を込めていた。「エーテリウムの副作用が世に出れば、五条医療帝国はすべて崩壊する」

 私は目を閉じた。心臓が激しく脈打つ。半年の逃亡生活、とうとう、終わりが来たのだろうか?

 その時、横からヘッドライトが煌々と照らし出した。

「危ない!」父が叫び、ハンドルを大きく切った。

 ドンッ!

 トラックが、残忍なまでの正確さで私たちの車に激突した。金属が引き裂かれる甲高い音、ガラスが砕け散る音、そして私の悲鳴が空気を満たした。車は道路から転落し、私の世界は血の霞にぼやけていった。

「梨乃……逃げろ……」父の最期の言葉が、私の魂に焼き付いた。「彼らに見つかったんだ!」

 嫌だ!お父さん!お母さん!

 鼻をつく鉄錆の匂い。両親の瞳から光が消えていくのを見た。これは事故じゃない、殺人だ!

 車が転がる中、私は隅に追いやられた。ねじ曲がったドアパネルの一部が、私を覆い隠してくれた。黒ずくめの男たちが近づいてきた時、私は息を殺し、じっと動かずにいた。額から流れる血が視界を滲ませた。だが、それが私の偽装にもなった。

「二人は死んだ。ガキもだ」男がぶっきらぼうに言い、私の手首を乱暴に掴んで確認した。脈が弱すぎて、彼は気づかなかった。

「急げ。誰か来るぞ」もう一人の声が急かした。

 彼らはすぐに立ち去り、残骸だけが残された。私は血と雨の中で、時が来るのを待った。

 五条……必ず償わせてやる。愛するすべてを失うのがどんな気持ちか、お前に教えてあげる。

 冷たい雨が顔を洗い流す。意識が遠のいていく。それでも、忘れるものか。あの男たちの冷たい目、あの夜の血の匂いを。

 五条家を、忘れない。

 霞む視界の中、水たまりを跳ねて近づく足音が聞こえた。「なんてこと.......事故だ!」誰かが叫んだ。

 誰かが私のそばに膝をついた。手際よく、安定した手つきで止血が始まる。

「おい、聞こえるか?しっかりしろ。もう大丈夫だ」冷静で、力強い声が届いた。安心させるような声。

 私は無理やり目を開けた。血と雨の向こうに、私を見下ろす端正な顔が見えた。黒髪から雨の雫が滴り落ちている。その瞳は深く、心配の色をたたえていた。

 弱々しく、私は彼の血に濡れた手を掴んだ。「お願い……助けて……」

「しっかり。もう助けは来た」彼の声はあまりに確信に満ちていて、まだこの世に優しさなんてものが存在すると信じそうになった。彼は振り返って叫んだ。「ストレッチャーを!出血がひどい、血圧が下がってる!」

 近くから誰かが答えた。「了解です、五条先生!」

 五条?

 その名が、雷のように私を撃ち抜いた。まさか……

 サイレンが鳴り響く。さらに多くの医療品が彼に手渡される。

「ここからは我々が」別の声が言った。

「容態が不安定だ。俺も同乗する」五条先生は、私の傷口をしっかりと押さえたまま言った。

 私はストレッチャーに乗せられ、救急車に運び込まれた。車内の厳しい照明の下で、彼の顔がはっきりと見えた。濡れたコートを脱いだ下には、手術着が見える。名札にはこう書かれていた。『五条和也 医師』

 五条和也.......五条.......

 皮肉にもほどがある。両親を殺した悪魔には、天使のような息子がいたなんて。

 でも、あなたは知らない。自分が今、誰を助けたのかを。

 救急車のサイレンが鳴り響く中、私は彼の丁寧でプロフェッショナルな手つきを感じていた。そして、復讐の炎が胸の内でより一層熱く燃え上がった。

 ここから、私の計画が始まる。ありがとう、神様。敵の息子自らの手で、私を獅子の巣穴に送り届けてくれるなんて。

 出血多量によるめまいが、私を闇へと引きずり込んでいく。視界が暗くなる。だが、意識を失う直前、私は彼の顔と名前を記憶に焼き付けた。

 五条和也.......

 三日後、私は豪華なVIPルームで目を覚ました。床から天井まである大きな窓から、太陽の光が差し込んでいる。すべてが、穏やかだった。

 完璧だ。

 その時、戸口に立つ二人の姿が見え、私の血は凍りついた。

 五条裕也と五条麻美。

 両親を殺した犯人たち。

 ここが五条医療センター。和也は私を、敵の砦のど真ん中に連れてきたというわけだ。

 飛びかかって、奴らの仮面を剥ぎ取ってやりたい。償わせてやりたい。だが、理性が私を押しとどめた。まだだ。待たなくては。時が来るまで。

 落ち着くのよ、梨乃。

「目が覚めたのね」麻美が優雅に近づきながら、完璧な慈善事業家のような笑みを浮かべた。「五条麻美です。こちらは夫の裕也よ。和也から、記憶を失っていると聞いたのだけれど?」

 見て、この顔、すべての表情が計算され尽くしている。私を試している。本当に何も覚えていないのかどうかを。

「私……事故の前のことは何も……」私は涙を頬に伝わせた。「ただ、お医者さんが……和也さんっていう名前だって……」

 演技?簡単なことだ。

 裕也と麻美は視線を交わした。彼の目から、いくらか緊張が解けたのがわかった。

「私たちの息子だ」彼の声は、吐き気がするほど優しかった。「これからどうするんだい?連絡できるご家族は?」

 家族?あんたたちが殺したくせに。

「私……何も覚えてないんです」私は声を詰まらせた。「行くところが、どこにも……」

 これだけは、本当のことだった。

 ちょうどその時、和也が入ってきた。まだ手術着のままだ。手術室から直行してきたのだろう。

「彼女の様子は?」彼はまっすぐ私のそばへ来た。その気遣いに、私の心の中で複雑な感情が揺れた。

「来てくれたのね!」私は彼の手に掴みかかり、声に安堵を込めた。「ここはどこ?どうして私、何も思い出せないの……?」

 和也は眉をひそめた。「うちは家族で医療センターを経営しているんだ。君は事故以来、ずっと意識がなかった。医者たちは、心的外傷による記憶喪失だろうと言っている」

「事故?」私は震え、声に恐怖と混乱を重ねた。

 彼の瞳に苦痛の色が浮かんだ。「こんなことを伝えるのは本当に辛いんだが……ご両親は、助からなかった。現場で亡くなられたんだ」

 私の目は見開かれた。本物の涙が溢れ出す。「そんな……嘘よ……」

 どう、この演技は?残念ながら、この涙は本物だけど、お母さんとお父さんのための涙。

「じゃあ、私にはもう帰る家も……」私は嗚咽し、声を震わせた。「何も残ってない……」

 和也は苦悶の表情で私を見つめ、私の手を握りしめた。「回復するまで、うちにいていい」

「ええ⁈それは少し不適切では.......」麻美が口を挟もうとした。

「いいえ」彼の声は断固としていた。「俺が彼女を助けたんだ。俺に責任がある」

 麻美と裕也は再び視線を交わした。やがて、彼女はまたあの偽りの笑みを浮かべた。「もちろんよ。私たちがしっかり面倒を見てあげるわ」

 彼らが同意した理由ははっきりわかっていた。私を監視するためだ。私がエーテリウムについて何も思い出さないかを確かめるため。完璧。それこそが、私の望んでいたこと。

 数週間後、私は退院を許可された。身体の傷は癒えたが、「記憶喪失」は続いたまま。麻美が自ら迎えに来て、あの完璧な慈善家の笑みを浮かべていた。

 見てなさい。あんたの一挙手一投足は計算ずく。私を囲い込めたと思っているでしょう。何もわかっていないくせに。

 その夜、私は和也の隣の部屋を与えられた。クリスタルのシャンデリア、シルクのカーテン、アンティークの家具。すべてが富を叫んでいた。私にとっては、罪悪感を叫んでいるだけだったが。

 私は窓辺に立ち、美しくも危険な新しい「家」を眺めた。

 隣の部屋から、和也と両親が話しているのが聞こえる。

「どうしてこんなに反対するのかわからないよ」和也の声は少し高ぶっていた。

「息子よ、我々はただ、彼女が君の仕事の邪魔になるんじゃないかと心配しているだけだ」裕也の声は、相変わらず滑らかだった。

 邪魔?ああ、邪魔どころじゃないことをしてあげる。

「彼女はすべてを失ったんだ。見捨てるなんてできない。俺が彼女を守らなければ」

 私を守る?なんて皮肉。あなたは、あなたの家族を破滅させる少女を守ろうとしているのよ。

 私は指先で窓枠をなぞった。その瞳には冷たい光が宿る。半年の逃亡生活。三日間の昏睡状態。そして今、私はここにいる。敵の領土の、まさに心臓部に。

 お母さん、お父さん……見てる?私は、中に入り込んだわ。彼らは傷ついた子羊を招き入れたと思っている。扉から狼を招き入れてしまったことにも気づかずに。

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